絶対シネマ(映画)感!

TV映画製作者のマスコミ試写レビュー ★キヨフィル★ シネマの虎

泣き虫しょったん 優作と龍平 世代を超えて父と息子の共演

勝負とは相手の気持ちなど考えず、人を蹴落としてでも出世のために攻撃する。

それが世の中で出世し、のし上がっていくことなのだ。

しょったんは小学生の時から20代の半ばまで将棋しかやってこなかった。

天才少年ではあったけど、大事な時に負ける。将棋はめっぽう強く、唯一の取り柄ではあるが、いざ勝負のときに、相手の嫌なところを攻めて、汚い手を使ってでも勝つという意地汚さがなかった。

奨励会 といういわばプロ将棋業界の既得権益の構造・・・

これは

日本の世の中のすべてに通じることだが、

試験に受かって出世した人々の権限が奪われないようなシステム、
その社会の悪しき構造をこの映画はするどく突いている。


 

 

もう一つのポイントはキャスティングだ。主演の松田龍平以外にも、そうそうたる主演クラス級の役者が脇役で出演している。この映画の主人公しょったんが将棋を最初に教わり、そして将棋をつづけていったらいいよ、と応援してくれるのが國村凖演じる父親。父と子の関係は、熱くこの映画の後半に効いてくる。

主演・松田龍平が最後に勝負に挑む、どうしても負けられない、
そんな試合の瞬間、カメラは将棋台を前に俯く龍平の横顔を映し出す。
そこに 松田優作 の顔が現れてくる。それは80年代の文芸映画、森田芳光 の「それから」に主演した優作の顔である。

「それから」は夏目漱石の原作を忠実に映画化した、

カメラアングル、セリフの立て方、など小津安二郎を完全リスペクトした作品。

当時の優作とほぼ同年齢となった、

この泣き虫しょったんの龍平の淡々とした表情の中に、はっきりと父・優作の顔がとらえられている。

役上の亡き父・國村隼のためにがんばるしょったんは、ある意味、もう一方で映画の外側、彼の本当の父親、優作のために戦う龍平がある

森田芳光の30年以上前の映画「それから」に登場した重要な役者に、小林薫イッセー尾形がいる。この「しょったん」でも将棋教室の先生役として二人は共演している。

父と息子の世代と時間を超えた共演である。(また、しょたんの母役である美保純も、それからに優作のお見合い相手として出演)

何より、このしょったんの父親役・國村隼は、

松田優作の遺作となった「ブランクレイン」で、

優作演じるヤクザの子分役として、國村は優作と共演しているのだ。

そんな映画の外側を知らなくても、涙が出る映画である。

しかし役者たちの外側に流れる関係性を少し知っていれば、もっと泣けるだろう。

そんな「泣き虫のあなたに奇跡がおとずれる」とっておきの映画。

2018年邦画の中で、ベスト3に必ず入る傑作!

 

泣き虫しょったんの奇跡」監督・脚本:豊田利晃 音楽:照井利幸

出演:松田龍平 野田洋次郎 永山絢斗 染谷将太 妻夫木聡 松たか子 

イッセー尾形 小林薫 國村隼  2018年9月7日〜 全国ロードショー

 

清藤誠/キヨフジセイジ http://kiyofuji.tokyo