絶対シネマ(映画)感!

TV映画製作者のマスコミ試写レビュー ★キヨフィル★ シネマの虎

アマゾンの半魚人と独身女のいびつに美しい恋のカタチ

 国家の機密情報として捕らえられた半魚人と

声を無くした40代の独身女性の

歪(いびつ)に曲がった美しい恋の形。

 

時は米ソ冷戦時代。戦勝国アメリカが世界的に強さを誇った50・60年代。

そんな時代に、未開の地で発見されたものが気持ち悪いほどの半魚人であっても、

核兵器開発や宇宙探査競争と同じく、そんな未知の生命体の情報の占有で、

ソ連よりもリードすることは極めて重要だった。(当時の宇宙人やUFO情報と同じだ)

 

国家の海洋情報研究所で働く名もなき掃除婦(言葉が話せない・40代独身女性・

密かに妄想的自慰癖)は、捕らえられた半魚人となぜか気が合い、

やがて惹かれ合い、激しい恋に落ちる。

 

それは実に歪(いびつ)で、痛さとカッコ悪さを伴ないながら、

流れるように美しい展開だ。

その歪(いびつ)さと不恰好さはきっと、今この現実世界を生きる私たちに鮮烈に、

そして虚構を伴った強烈なリアリティとして突き刺さって来ることだろう。

 

妻・子供、キャデラック、憧れのアメリカンな家族。

そしてきっと最後に残忍に殺されてしまうだろう(と思われるほど強烈な)大悪人。

 

映像の中で作られた現実は実に素晴らしい。

その構築されたフィクションの中のリアリティを、本編2時間の間、

存分に味わってその世界で他人の人生を体感して欲しい。

創造された虚構世界の”手に汗握る”究極のリアリティ、それが映画だ。

 

シェイプ・オブ・ウォーター」は、そんな映画的リアルな世界の中で、

存分に大鉈を振り切った映画監督ギルレモ・デル・トロの傑作である。

Sally Hawkins and Octavia Spencer in the film THE SHAPE OF WATER. Photo courtesy of Fox Searchlight Pictures.

© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

シェイプ・オブ・ウォーター

監督:ギルレモ・デル・トロ 

出演:サリー・ホーキンスダグ・ジョーンズマイケル・シャノンリチャード・ジェンキンス、マイケル・スターグバーグ、オクタヴィア・スペンサー他  (2017年 アメリカ・20世紀フォックス)

 

2017年ヴェネチア国際映画賞金獅子賞。

東京国際映画祭でも特別招待作品として先行上映されたが、

僕はその機会に見ることが出来ず、マスコミ試写でも予定が合わず、

日本公開二日目に見ることが出来た。

 

デル・トロが幼少期に見た1954年のアメリカ映画「大アマゾンの半魚人」が

元ネタになっている。そのネタ元と合わせて鑑賞すれば味わいは倍増するかもしれない。

合わせ見るのであればオススメは、主演の声を無くした独身掃除婦を演じた

女優サリー・ホーキンスが主演するもう一つの作品

同時期に日本で公開されている

しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス」だ。

この映画でサリーは、子供のような無垢で可愛く愛らしい素朴派画家として

カナダで有名なモード・ルイスを演じている。

 

生まれつき体が不自由で、電気も水道もない貧困の生活の中で暮らす彼女。

この映画の中の恋愛も、やはり歪(いびつ)である。

映画の作りも世界観もまったく違うが、演ずるサリー・ホーキンスは同じ。

ハンディキャップや社会的マイノリティなど同じように受け取ることもできるが、

役柄や演技の組み立ては全然違う。

 

しかしそれが演じる役者の個性から、

まるで地続きのように双方の映画世界に響きあう。

また、これも役者の力、映画の力なのである。

 

「しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス」

監督:アシュリング・ウォルシュ 出演:サリー・ホーキンスイーサン・ホーク

2016年カナダ・アイルランド 配給:松竹  3月3日(土)より

新宿ピカデリーBunkamuraル・シネマ、東劇にて全国ロードショー

https://youtu.be/DUMbFosbkyI

 

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バンド・デシネ実写化/シンギュラリティの先の先

圧巻は駆け抜けるようなイントロダクション

近未来・超未来設定を物語る導入アヴァン部分だ。

まるで80〜90年代の日本SFがリスペクトされているような既視感

それはフランスのバンド・デシネ(漫画)を原案・下敷きにしているからだろう。

 

かつてスターログ」という日本で発売されていたSF雑誌で、紹介されていた

欧米のSFイメージと、それを存分に吸収した日本のSF小説・漫画・アニメが、

逆に全世界に与えた返した影響とが呼応し、到達した想像力の結晶が、

昨年2017年公開の「ブレードランナー2049」などとともに、

今まるで里帰りするかのように、私たち日本の観客の眼前にも迫まりくる。

「レオン」のリュック・ベッソンの監督、長編演出物としては17作目。

20年前の自身監督のSF傑作「フィフス・エレメント」の設定・構想規模を

軽々と凌駕する新作『ヴァレリアン・千の惑星の救世主』だ。

 

ある惑星で平和的に暮らしていた異星の人類が、その近くで行われた(地球人が加担した)宇宙戦争によって故郷を失う。

これは物語の伏線の一部に過ぎないが、この時に死に至ったある女性異星人の意識・魂が、生きている地球人、主人公ヴァレリアンの生命に転移・共生する。

 

現実的に想像可能なSF的設定の他に、心理学者カール・グスタフユングが提唱した

集合的無意識のような概念のストーリーラインが併走することで、

この物語の重層性・深さが増すようにも感じられる。

 

我々・地球人類は、この広い宇宙の中で、生物学的に物質的に、

ただ単独で生存しているわけではなく、魂や意識という、

〜あるようでない、あるのかないのか不確かな〜ものも含め、

決して単独の生命体ではないのだ。

 

AI・人工頭脳が人間的能力を超えるときにこそ、

この人間の不確かな「あるようでない・あるのかないのかわからない」ものの存在が

際立つ時代がやってくるだろう。

そんなふうに、驚異的なスペクタクル・ストーリーに身を委ねながら、

様々な人間の未来を想像しながら楽しむ一編である。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=9&v=BszXhUjJz00

 

「ヴァレリアン・千の惑星の救世主」2018年3月30日(金)全国ロードショー

 

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言論の自由も資本第一・アメリカが隠蔽する「自由の正体」

資本主義社会の中で「報道・言論の自由」も

やはり会社経営・お金という問題は避けて通れない。

スティーブン・スピルバーグ監督「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書には、

ただ「言論の自由」というジャーナリズム vs 政府の戦いだけでなく、

国家機密をスクープすることで 新聞社経営部 vs 機関投資家の間での葛藤があり、

大手新聞社も、資本主義社会の中で成立する一企業として描かれていることが

この映画のポイントだ。

 Photo : Niko Tavernise.©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

それは現在のトランプ政権に対する、情報隠蔽体質、閉鎖型ナショナリズムを標榜している政府への直接的な批判ということだけでなく、

いわゆる「ウォールストリート資本主義」の中で樹立しているマネー第一主義政権へのささやかな皮肉のメッセージでもあるのだろう。

いま2018年、この映画本編をアメリカ国民と外国人観客たちがどう見るかで、

アメリカのこれからの方向を占える指標ともなるだろう。

それを感じるために観に行く映画である。

 

アメリカ大統領が4代・30年間にも渡って隠し続けた

国家の最高機密文書・ベトナム戦争をめぐる軍事行動の虚偽報告書類、

それがペンタゴン(米国防省所在地)・ペーパーズだ。

その文書を首都の新聞メディアで公表することになるワシントンポスト紙、

その新聞社・編集部が舞台となる。1970年代、当時はまだ東西冷戦下。

世界平和のため=核戦争勃発を防ぐために、政府による独断的な軍事的介入が、

ある程度は必要であったとはいえ、自由を謳う国家の「報道・言論の自由には、

あってはならない隠蔽の歴史と言えるだろう。

 

やがて歴史の1ページに記される

自由の国アメリカが隠蔽しようとした情報公開・報道・言論の自由」。

 

この後、20世紀の覇権を握り続け、憧れの自由な民主主義のイメージを

強固にしてきたアメリカには、自ら反省しこの事実を堂々と後世に伝えていくことが

できるだろうか。あるいは、これは一義的な政治の汚点として、

やはり「自由の国・アメリカ」をこれからも謳い続けていくのだろうか。

 

欧州・ユーラシア・アフリカから自由を求めて、

多くの移民たちによって建国されたアメリカが、

20世紀の30年間をこのように情報公開の自由を押し殺し続けていた

ということを、この新聞が印刷した歴史の1ページが証明している。

 

©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.      
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」 2018年3月30日(金)全国ロードショー

 

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男女が出会って・つきあって・夫婦になるとはどういうことか

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マリオン・コティヤールという魅惑のフランス人女優と

ブラッド・ピットの主演映画「マリアンヌ」である。

監督は「フォレスト・ガンプ/一期一会」で

米・アカデミー賞ゴールデン・グローブ賞、全米監督協会監督賞の

ロバート・ゼメキス

 

ファースト・シークエンスは、スパイ映画のように幕開けする。

全編に渡ってメロウな恋愛映画なのではないかと身構えると、

スリリングなオープニングで、その世界に引き込まれる。

このファーストシーンの緊張感は、作品全体の良さをすぐに教えてくれるだろう。

だから絶対映画感覚で言えば、見ておいて間違いない。

 

とにかくこれは恋愛映画ではあるが、とてもハードだ。

映画の世界にいる間、「男女の出会い」とは、どういうことかを考えさせる。

主人公の二人は仕事で出会う。これは私たちの日常よく起こること。

最初から恋愛関係では始まらない。(ネタバレ無しに書くと・・・)

 

まず、仕事、任務で出会い、

仕事や役目の関係上、パートナー、タッグを組む。

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そのうち男女は何かしら心を惹かれ合う。

仕事や任務なので、それ以上は、止しておくか、踏みこえるか。

踏みこえると、恋愛関係で交際が始まり、やがて結婚・夫婦になり、

子供が誕生し、家族になる。

 

始まりは全くの他人同士。

男女が出会って、そのような特別な現象が起こる。

第二次大戦中のヨーロッパ、しかも英・仏・独という国をまたがって、

スパイ戦、駆け引き、騙し合いの中で展開する単なる恋愛感情を超えた

男と女の愛情をめぐるその真相は、凄まじく、

そんな相手を疑う心と、愛する感情の間で、

なぜか自分自身の身にもつまされるように感じることだろう。

 

生まれた場所や育った環境が違う、

そんな男と女が仕事の役目で出会って、

パートナーを組む・・・これは今、日本全国で起こっているが、

なかなか「つきあって・結婚して・家族になって」

そして、心からその家族を愛するという関係になるまでは

何かしら困難が立ちはだかる場合が多い。

 

こんな20世紀初頭の困難に比べれば、

いま我々の東京的・人間関係的な難しさなど

「大したことはない」と思うことだろう。

そして、関係を超えた男女の愛とは何かを深く思うことだろう。 

 

原題は「ALLIED」。意味は「同盟になる」。

その方が意味深いが、邦題「マリアンヌ」の方が雰囲気は合っている。

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2017年1月31日 東宝東和試写室 Preview

2月10日 全国ロードショー公開中(絶シネ度★★★★)

 

そう簡単に、歌って踊らない! 自然な流れとズラしが秀逸な「 LA LA LAND ラ・ラ・ランド」

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女は大作映画のオーディションを受けるが女優としては目が出ず、

撮影所の前にあるカフェで女給として働く。

男は自称ジャズ・ピアニストではあるが、

実際はレストランで客のリクエストでムード音楽を鳴らす名もないピアノ弾き。

男はそんな店もクビになる。

 

そんな売れない女優としがないミュージシャンは、

何度か顔をあわせるが、似たような境遇だからといって、

出会ってすぐ簡単に、恋に落ちることはない。

現実は映画のようにはいかないのだ。

この作品がいくら「映画」、しかも「ミュージカル映画」だといっても、

スクリーンの中で出会う男女が、そう簡単に恋に落ち、恋人同士になるわけはない。

そんなリアルが、この映画「 LA LA LANDラ・ラ・ランド」の良さの一つでもある。

 

しかしオープニングは、観客を作品世界にぐっと引き込む秀逸な幕開け。

1950年代、栄華を誇った時代のアメリカ西海岸。

流れるカメラワークで、カラフルな原色の車が渋滞するフリーウェイ。

突如、歌い出すアメリカの若者たち。なんだかこれが不自然ではない。

セリフのように様々な立場にあるアメリカ人を登場し、歌い・踊る。

まるで「当時のアメリカ人なら、こんな風に歌うように喋っていたんじゃないの?」

と感じさせられるくらい、なんだか流れるようなミュージカル映画の始まりである。

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それでも本編中は、そう簡単に「歌って踊らない」!

そんな、自然な流れとズラしが秀逸な「 LA LA LAND ラ・ラ・ランド」

監督は2014年、「セッション」でサンダンス映画祭グランプリ&観客賞、

米国アカデミー作品賞候補にもなった、デイミアン・チャゼル。その最新作。

 

主演は、ライアン・ゴズリング(「ドライブ」’11)と

    エマ・ストーン(「アメージング・スパイダーマン」、続編)。

「セッション」とはまったくテイストが違うが、そのチャゼルの新作とくれば、

僕のごとき「映画見」は是非とも見ておきたいところだ。

 

では、「絶対シネマ感覚」で言えばどうか?

絶対に映画館で見ておくべきか、そう慌てて見るほどではないか?

 

・・・といえば、とにかく映画館で見て、絶対に損はない。

「映画の演出・仕掛け・見せ方の現在」を押さえておく意味でも、

今、映画館で見ておくべき作品である。そして・・・

 

女優になりたい! ミュージシャンになりたかった!

映画を観に行く私たちの心の中に、少しはそんな夢想があるのだろうか。

おそらく誰もが、画面の中で「言い合い、歌って踊る」そんな男と女に、

少しだけ、あるいはそれ以上に、驚くほど感情移入することだろう。

 

行き着く先に何があるのか? 私たちが夢想する憧れの世界のゴールとは・・・

それは本編を見て、それぞれに感じていただきたい。

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(↑  サントラ盤のビジュアル)2017年1月19日  GAGA試写室 Preview

・・・ちなみに、私の現時点(2/6)での米アカデミー作品賞予想はこれではない。

 

2017年2月24日公開・全国ロードショー(絶シネ度★★★)

 

 

「七人の侍」を見ていても・見ていなくても「マグニフィセント・セブン」はどうなのか?

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黒澤明七人の侍」「荒野の七人」を下敷きにした、

また新たな作品だ。その物語を僕は何度も、何度も見ているが、

結論から言うと劇を見ている間、ハラハラ・ドキドキ・バンバン人が殺され、

死んでいく壮絶な話だが、映画としての王道の面白さで大満足となる映画だった。

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 「七人の侍」は、自分の20・30代にわたって何度も見た。

橋本忍黒澤明小国英雄による共同脚本(といってもほとんど橋本忍作品だが)

も何度も読んだ、スペクタクル・ストーリー展開のお手本である。

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だから「マグニフィセント・セブン」もデイゼル・ワシントンが志村喬で、

誰が宮口精二か、加東大介か。三船敏郎はどれなのか、

わかって見ることになるのだが、これが全く予想がつかないくらい

飽きさせずにストーリーは展開する。

もしかすると直前に黒澤「七人」を見て挑んでも大丈夫かもしれない。

 

もちろん「七人の侍」を知らなくても、全く問題はない。

いや未見であればもっとハラハラするだろうし、

「マグニフィセント」後に改めて「七人」を見れば、

この作品構造の超越的な凄さに気づくことだろう。

エンターテインメントとは、見せる術とは、楽しみながら体験できる。

それでも結構、エネルギーを消費します。ストーリーを知っていてもね。

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今年初めて見たマスコミ試写(2017年1月10日 ソニー・ピクチャーズ試写室)。

 

トレーニング デイ』『イコライザー』のアントワーン・フークア監督と

アカデミー賞受賞俳優デンゼル・ワシントンが3度目のタッグを組んだ!

6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホーク

ジュラシック・ワールド』のクリス・プラット

REDリターンズ』のイ・ビョンホンなどの

豪華キャストで偉大なる男たちの熱き生き様を描いた男が惚れる

ド派手なアクション超大作!

 

1月27日〜公開中(絶シネ度★★★)

 

なぜ神は沈黙するのか? 私たちに問いかける根源的な問題

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極東の島国で起こったこれほどの悲劇に、

なぜ神は「沈黙」し続けたのか?

この作品のタイトルが放つ、主要テーマの一つである。

それだけこの原作の題名は秀逸だ。

 

遠藤周作の小説「沈黙」が新潮で文庫化され発売されたころ、

今から35年前、僕は書店に並んだその本のタイトルを見てこう思った。

 

隠れキリシタンのことを扱った物語だから、登場人物が、

キリシタン弾圧の日本で自分の信仰を問われ、

一切本当のことを言うことが出来ず黙ったまま、沈黙を続ける。

それがこの話の結構だろうと。

 

しかしそれはそんな単純なものではなかった。

ひたすら自分の信仰心を押し隠したまま、

無言でいるだけの「沈黙」ではない。

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 マーティン・スコセッシの「沈黙-サイレンス-」は、

とてつもない力を持った傑作である。

遠藤周作の原作を忠実に映像化。

それだけではない。その残酷極まりない江戸初期までの

キリシタン弾圧時代が描かれた本編を見通すことで、

見るものに根源的な問いを投げかけてくる。

 

それは「極東の島国で、主とされる人物をめぐって起こった

極めて残虐なる悲劇に対して、主は、神は、なぜ沈黙を続けたのか」。

そして、それはそのまま、

私たちに極めて素朴なこんな疑問さえ沸き起こさせる。

 

踏み絵を拒んだ隠れキリシタンの百姓が、

見せしめに首をはねられ殺され、無残に引きずられる。

彼の遺体を見て宣教師のロドリコの心情は、

原作ではこんな風に描かれている。

 

「一人の人が死んだというのに、外界はまるでそんなことが

 なかったかのように、先程と同じ営みを続けている。

 こんな馬鹿げたことはない。これが殉教というのか。

 なぜあなたは黙ってる。あなたは今、あの片目の百姓が

  ーあなたのためにー 死んだということを知っている筈だ

 なのに何故、こんな静かさを続ける。この真昼の静かさ、

 蠅の音、愚劣でむごたらしいことまでまるで無関係のように、

 あなたはそっぽを向く。それが・・・耐えられない」

 

果たして本当に「神は存在するのか」?

神が存在するなら、これほどの苦難を受け続ける私たちに、

何も啓示もなく、全く押し黙ったままの静けさを、

一体どう考えればいいのか・・・

 

信仰という信念で苦行に耐えて、その先に自分たちが信ずるものの

存在は、果たしてあり得るのか? 神様はいるのか、いないのか?

 

宗教・信仰というものに対する極めて根源的な問いかけが、

映画本編を見続ける私たちの根底に突き刺さる。

欧米のキリスト教圏の人々はもちろん、むしろ異教徒や

無宗教と言っている現代の極東島国の人々に

多く経験してほしい映画体験である。

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 2017年1月11日 角川試写室 Preview

1月21日〜日本公開(絶シネ度★★★★)